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高級時計は何を買うかではなく、どこから買うか

hirota_2A-830x553 高級時計は何を買うかではなく、どこから買うかTEXT by Masayuki Hirota


何を買うかよりも、どこで買うかが大切

時計に関わって感じたのは、何を買うかよりも、どこで買うかが大切ということだ。時計を手にするという行為は、金額の多寡にかかわらずひとつのイベントであり、それが記念の品ならばなおさらだろう。であれば、思い出を作れる店や人から購入したほうが気分はいいだろう。もちろん一円でも安く手に入れることに、情熱を傾けてもかまわない。しかし筆者の乏しい経験を言うと、そういう経験はスリリングではあるが、一生語れる思い出にはなりにくい。あなたが商売人でない限りは、だけど。

社会人になった時、結構な金額を払って車を買った。担当した色黒のセールススタッフは、あなたとは一生のお付き合いになりますと胸を張って語り、しかし1年後に辞めてしまった。その後、背の高い男が引き継いだが、やはりすぐに消えてしまった。車を点検するだけならば普通のクルマ屋で十分と思い、以降その店から足が遠ざかった。

思い出を共有した人たちの関係性は、売り買いをはるかに超えたところにある

筆者がオオミヤを好きになった理由は、スタッフのあり方が、その車屋と真逆だったからだ。長く勤めるスタッフが多いから、みな知識が豊富だし、自然と顧客との付き合いも深くなる。実際、筆者はオオミヤのスタッフを介して、何人もの顧客と知り合った。顧客への納品に付き合い、夜通し飲んで意識を失う経験など、そうそうあるものじゃない。思い出を共有した人たちの関係性は、売り買いをはるかに超えたところにあるし、オオミヤはそれが自然とできている。

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もうひとつの理由は、時計の選択が真っ当なことだ。筆者は元々サラリーマンで、今でこそ数千万の時計を書いたり話したりしているが、好みはあくまで、買える範囲の時計だ。オオミヤは今でこそ扱いブランドを広げたが、基本的には買える時計というポリシーを守っているし、スタッフの時計を見ても、基本的には買える物に留まっている。つまり売る人と買う人の目線が同じ高さにある。彼ら彼女らのアドバイスが、知識の量を問わず傾聴に値するのは、つまるところ、そういう真っ当な姿勢によるのだろう。

正直、時計は何を買ってもいいし、どこで買っても構わない。ただ、時計を通じて思い出を作りたいならば、長く使えるモノを選んだほうが、そして長くつきあえる店で買った方が、より楽しいに決まっている。オオミヤは一貫してそういう店だし、だから筆者は、時々遊びに出かけては、お茶を飲んで帰ってくる。ではなぜ買わないのか?理由は簡単である。一度買うと、次も買いたくなるだろうから。

クロノス日本版編集長広田 雅将
時計専門誌『クロノス日本版』編集長。1974年大阪府生まれ。サラリーマンを経て2004年からフリーのジャーナリストとして活動。2016年から現職。朝日新聞&、GQ JAPANなどに連載多数。